「………あ………お…」
色のない震える唇から、細く小さな声で、俺の名を呼ぶ絢音を力強く抱き締めた。
「………絢音…っ」
「………ゆ……め……?」
絢音がうつろな瞳で俺を見つめる。
「……夢じゃないよ」
「…だって……蒼が……泣いてる…」
そう言って絢音は、俺の頬に手を伸ばした。
「絢音がいなくなったからだよ…」
絢音は目をゆっくりと閉じ、身体が急に重くなり力が抜けたようだった。
「絢音…っ…シッカリしろ…っ」
「………蒼はいつも……泣いてるの…夢の中で…いつも……」
「…絢音…目ぇ瞑んなっ!開けろよ!」
絢音の頬は氷のように冷たく、俺は自分の頬を当てた。
「………蒼…どうして……いるの……?」
絢音が目を開けた瞬間、俺は、絢音の唇にキスをした。
冷たい唇だな…すぐに暖めてやるから…
おまえを絶対に
死なせたりしない
…………愛してる。
そっと唇を離した。
「……どぉして…?蒼……」
俺も絢音も泣いていた。
「絢音……ごめんな」
君が許してくれるなら
今度こそ俺は……―――
「………何…で…?」
「絢音……俺のそばにいて……」
「……蒼………?」
「勝手でごめん……絢音を傷つけて…泣かしてばっかり…本当に今までごめんな……」
「……あたし…わけわかんない……」
「俺は…絢音さえいれば、何もいらない…」
失いかけて
死ぬまで後悔するところだった
人は失わないと
気付けないのかな
本当に大切なモノ
無くしてはいけないモノ
俺は……君さえいれば
何もいらない……―――。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)