絢音の家の前で、車を止める。沙羅を駅まで送ってきたから遅くなってしまった。




車から降り、ボンネットに寄りかかりながらタバコに火をつけた。




――……ガチャッ




「遊也…っ!遅かったね…なんかあったのかって心配したよ?」




玄関から、不安そうな顔で飛び出してきた絢音を、俺は笑顔で迎えた。




「何もないで…?」




俺は地面にタバコを捨て、足で踏みつけた。




「そ?ならよかった」




絢音は両手で、俺の左手をぎゅっと握りしめ、下から俺を見つめた。無邪気な笑顔、潤んだ綺麗な瞳、触れると冷たい頬。




もしも蒼が……

絢音を選ぶと言ったなら




俺は…絢音の手を離すだろうか……




蒼は

俺の裏切りを許し、


何よりそんな俺を

大事な友達だと言ってくれたんやから……




大事な友達と

愛する女が




幸せになるんやったら…俺は……




そんなの…綺麗ごとって

聞こえるかもしれんけど




高校生の時とは違う




あの頃は


ただ無邪気に

想い思うままに



好きだと言えた



友達を傷つけても

好きな人を泣かせても



自分の想いに

素直に従えたあの頃……




あの頃のようには

もう…戻れない……






俺たち皆…

大人になったんやから




「…遊…也……?」




俺は、小さな絢音の身体をそっと抱き寄せた。