「蒼は何も知らへんよ…おまえが本当は声出るっちゅーことも、担当医が俺の父親っちゅーことも…」




「言いたきゃバラせばいいじゃない…」




その強気な言葉とは反対に、沙羅の声は微かに震えていた。




「俺から蒼に言うつもりなんてあらへん…」




「………えっ…?」




「声出んのに話せないフリして…蒼に嘘ついて…おまえツラくないんか…?」




「…何がわかるっていうの?」




「ツラいやろ…?そもそもアイツのそばにおること自体、ツラいはずやのに…」




沙羅の大きな瞳には、涙が溢れていた。




「…パパが死んで…蒼と暮らして…しばらくは本当に声が出なかった……。でもある日突然、理由もわからずに治ってしまったの…」




沙羅は、涙で濡れた顔を両手で覆った。




「声が治ったってこと…蒼が知ったら、蒼がどれだけ救われると思うんや…?」




「言えないよ…っ!絶対に……言えない…」




「それを知っても蒼は…おまえを捨てたりせぇへんよ…」




沙羅は、うずくまり泣いていた。




「同情でも、罪悪感でも…責任感でも何でもいいの…!…ただ…沙羅のそばに…いてくれるなら……」




沙羅の願いは

蒼のそばにいること




相手が自分を

愛していなくても……




俺と似ている




「……沙羅は、蒼が…そばにいてくれるなら……何だって構わない……」




目の前の沙羅が

小さな子供に見えた




欲しいモノが

手に入らなくて泣きじゃくる


子供のように…




でもそれは

俺の姿でもあったんだ




「蒼は…沙羅のそばにおるよ…」




「……そんなことない…っ」