「声出ないフリして、いつまで嘘つくねん…」




今度は沙羅が俺を睨み返した。俺は沙羅の秘密を知っていた。コイツは本当は声が出るんや。




でもそれはきっと、誰も知らない。蒼にさえ嘘をついてるんやから。




「…前に蒼から、話の流れで沙羅が通院してる病院名をたまたま聞いたんや……。そこの医師に知り合いがおんねん」




沙羅は、落ち着かない様子で左腕をさすっていた。




「沙羅の担当医師なぁ、俺の父親なんや…」




「えっ……?あっ…」




沙羅は、驚きと共に声を出し、その口を両手で押さえた。




「やっと、しゃべりよったな…」




沙羅はばつが悪そうに、深くため息をつく。




「世間ちゅーのは案外、狭いもんやな」




「…桜井先生が遊也くんのお父さん…?だって遊也くんの名字は、一ノ瀬でしょ…?」




「離婚してんねん。智也っちゅー双子の弟がおったんやけど、父親が智也引き取ってな…俺は母親に引き取られたんや」




「……声が出ること、桜井先生から聞いたの?」




「ちゃうよ…もう父親とは何十年も会うてへんし、話してへんもん…。父親ちゅーてもアイツには新しい家族おるしな」




「じゃあ何で知ったの?」




「…蒼から病院名を偶然聞いた時、なんかな…久々に父親の顔を見たくなったんや…せやから、こっそり顔見に行ってみよーかと思ったんやけど…」




俺の父親が…今


俺を捨てて、新しい家族と、どんな顔して生きてんのかって……




「そん時…病院の待合室で偶然、立ち話しとった父親と沙羅を見たんや…。声が出ないはずのおまえの声がしっかりと聞こえたで…」




「そう……じゃぁ、蒼は…沙羅が声出るっていうことを知ってるのね…?」