「俺のこと…覚えてるやろ?」




沙羅は、静かに小さく頷いた。




「こんなとこで何してんねん?」




沙羅は、俺から目を逸らし、持っていた鞄を両手でぎゅっと握り締め、俯く。




「もしかして絢音に…会うたんか?」




沙羅は、俺に背を向けた。こんな所に沙羅がいる理由がない。絢音に会いに来たんやと確信した。




「おまえ…何を企んでんねん?絢音に何かしたら俺…許さへんよ…」




俺は沙羅の腕を掴んで自分の方に顔を向けた。それでも目を合わせない沙羅の顎を手で押さえ、俺は睨み付けた。




「おまえ…蒼に、いつまで嘘つくつもりなんや…?俺…知ってんねや」




沙羅の哀しそうな目を見て、俺は手を離した。スーツの内ポケットからタバコを出し、一服する。




白い煙が夜空に消えてゆく。俺はガードレールに寄りかかって俯く沙羅を見つめた。




「何黙ってんねん…おまえ本当は……声……出るやろ…?」