「…なんだい?兄ちゃん、忘れられない女でもいるのかぁ?」




おっちゃんは包丁の動きを止めて、俺を見つめる。




「…俺やないで?…そんな可哀想な顔で見んといてやぁ……」




俺は、酒を一気に飲んだ。




「…そうだなぁ…やっぱり…時間じゃないか?」




―――時間。




絢音には

まだまだ足りひん




それにやっぱり

時が経っても…




絢音は

蒼を忘れられない気がする……




あいつらは何ていうか


特別なんや




「真剣な顔して…やっぱ兄ちゃんのことかぁ」




「ハハッ…ちゃうって…」




「あとは…忘れられない人のことを嫌いになるとかなぁ…」




おっちゃんは冗談ぽく笑いながら言った。




「嫌いに…なるねぇ…」




「嫌いになれば、次の恋に前向きになって…そいつのことは自然と忘れるんじゃねぇか?」




「…………嫌いになる」




「まぁ…なかなか好きだった人を嫌いになるって…裏切られたりしない限り難しいだろうけどな…」




裏切る……




「……そぉいうことかいな……」




「兄ちゃん?どうしたんだ?」




蒼…おまえ




絢音に嫌われようと




“予想してた”




蒼との電話を思い出した




蒼……絢音のこと




裏切って

傷つけて

泣かせて




自分のことを

恨ませて

憎ませて




二度と
好きにならないように




嫌いにさせるつもりかいな……




蒼……―――