ほんまに…これでええんか…?


なぁ…蒼


絢音は

今でもおまえを


想ってるで




別れを告げても


好きな女が出来た言うても



おまえを想っとった




んなこと…俺に言われんでも


おまえは

誰よりも絢音のこと
わかってるやんな……




ガラガラガラ……


のれんをくぐって扉を開けると中から威勢のいい声が聞こえてくる。




「…っらっしゃーい!」




いつもと変わらない、おっちゃんの声が店中に響きわたる。




ここは、俺のいきつけの小さな居酒屋。




「―――……おっちゃん、ビール頼むわぁ」




「はいよっ!」




おっちゃんも俺の顔を覚えてる。


20才になってから、週に3、4日は通う、常連になっていた。




「はい、ビール」




カウンターに座っている俺に、お通しのきんぴらごぼうと、ビールが置かれた。




「…若いのに、今日も疲れた顔して……いい男が台無しじゃないか」




「ハハッ…おっちゃんが元気すぎんねんて」




おっちゃんは…何十年も会っていない父親にどこか似ている。




声とか…話し方とか…




けど似ていると言っても、昔の記憶で…すごく曖昧だなと思った。




似ていると思いこんでいるのかもしれない。




または、似ていて欲しいという願望かもしれない。




何故か、顔を見に来たくなる…おっちゃんはそんな存在だった。