その夜は、あまりにも綺麗な白い三日月が夜空に浮かんでいた。




身体に浴びる夜風は少し生暖かくて、もう夏が間近なんだと感じさせる。




レストランを出てから、絢音は一言も発さなかった。無理もない。何もかも、いきなり過ぎたんやから。




「送ってくれて…ありがと」




絢音は立ち止まり振り返る。ここは絢音の家の前だ。




「今日は、ごちそぉさま。あんなおいしいご馳走食べれるなんて思わなかった」




絢音は、俺の顔を見て少しだけ微笑んでくれた。




今日はもう笑ってくれないと思うたから…最後に絢音の笑顔を見ることができてよかった。




「たまには、美味しいもん食べとかんとな…。何のために働いとんのか、わからんしな…」




「フフッ…遊也らしいねっ」



何事もなかったかのように振る舞う絢音に、俺も合わすしかなかった。




「ほな…帰るわ」




「うん、バイバイ……ちょっ…遊也…」




俺は、絢音の腕を引き寄せ、抱き締めた。




「何してんの…?遊也…離して…」




俺の身体を必死に突き放そうとする絢音を抑え込むように、
俺は一層力強く抱き締めた。




「俺は…ずっとおまえのこと待っとるから…」




いつまでも俺は

おまえを待ち続ける




「……遊也」




そっと絢音の身体を離し、頭を撫でた。




「ほなな…」




その場に絢音を残し、俺は立ち去った。