「…絢音…っ」




耳元で何度も囁かれた




蒼じゃない声……




この大きな優しい手は

蒼じゃない……




このぬくもりも……


噛まれた感触も




蒼じゃない…。




激しく揺さぶられる身体に、少しの痛みと、目眩さえ感じた。




今、あたしの目の前にいるのは、裸の遊也……




あたしは、遊也に抱かれるまで、自分だけが可哀想だって思ってた。




パパと蒼のお母さんのことを知って、


パパの裏切りを知って、


何も知らないママや蒼を庇う為に、あたしは何も知らないフリをして生きてくんだって、


大好きな蒼と別れなきゃいけないんだって、




自分だけが被害者のように感じてた。




けど、こうして遊也に抱かれてわかった。




軽蔑さえした、汚れた愛だと、パパの裏切りをなじった。




信じて裏切られた気持ちがどれだけ辛いか知った。




頭がおかしくなるくらい、胸が張り裂けそうなくらい、泣いても泣いても、涙が止まらなくて、震える身体を止めることが出来ないくらいの、行き場のない苦しみだった。




だけどいま、あたしはパパと同じことをしてる。




最低で、目を塞ぎたくなるほど汚い行為。
愛し、愛してくれる人を裏切り、

愛してなどいない人に抱かれた。




こんなことしても、記憶なんて消せないのに。


何も変われないのに。




最低なのは、あたしだ。




あたしは、蒼を裏切ったんだ……――。