君と、○○のない物語


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季節は秋になっていた。
その日は茅原と朔の二人で見舞いに行く事になっており、茅原は駅でそわそわと待っていた。
別にデートじゃない。デートじゃないんだから落ち着け。

「―…茅原さんっごめんねー待たせちゃって!」

「全っ然!!!?」


それが待ち合わせ30分前の会話である。


「…やっぱり、まだ春海くん何の音沙汰もないの?」

「うん…警察も探してくれてるんだけどね。春海って元々、家出した頃から見付からずにいるわけだからなあ…」

「簡単に見つかるような人じゃないよね。春海くん自分から戻ってこない限り見つからなそう。」

「そうなるといいんだけど。」



一方で、病院には一人の男性が足を踏み入れたところだった。
病室の位置を確認して、5階まで階段を上って行く。
目的の部屋の前で深呼吸をした。
まだ目を覚ましていない相手に緊張する必要はないだろうけど、何しろ数年振りに会うのだ。
本当はこんな形で会いたくはなかった。
ゆっくりと扉を開け、真っ先に窓際のベッドに彼を見付ける。

「―…夏樹?」

夏樹の目は開かれていた。
寝惚けたような虚ろさだったが、しっかりと彼を見ている。

「…まだ寝てると思ってた?」

掠れた声で、夏樹は笑う。

「…思ってた。」

「ばーか…もう大分前に起きてたっつの。」

「俺の事、怒ってないの、お前。」

「別に。…おかえり。」

彼は安心したような切なくなったような、複雑な思いで肩を竦める。
『ただいま』と呟いたら、夏樹は笑った。




「―…春海はさ、決めたことは曲げない奴だけど…それ以上に周りの人間は大切にするよ。」

「戻ってくるかもって事?」

「だといいなって、最近思ってる。」


二人は病室の扉を叩く。
中にいた彼は驚いて、遠慮なしに開かれた扉を注視し―…
鉢合わせた4人は、泣きそうに笑った。