《指輪/憧れ》

香色の旭光を浴び
坂道を昇れば
枯渇した貯水池が
恨めしそうに
太陽を睨んでいる

カンバスを抱え
小さく息衝いて
四つ辻を曲がる

いつものバス停
レースの日傘の
いつもの貴婦人

滑らかな白い肌
繊細な細長い指
美しい彩りの服
このひとはきっと
サラダを盛るのが
上手だろう
ふわり風が薫り
不意に眼が合う
優雅な微笑みを躱し
僕は俯き瞼を伏せた

貴女はこんな
喜悦を知りますか
貴女はこんな
哀切を知りますか

花の精の和声が
穏やかに響く朝
溜め息ひとつ
鈍色の路に落とす

白く細い薬指の
控え目な煌めき

艶麗な貴婦人
明日も此処で
お会いしましょう
枯渇した池のような
僕の心に水を下さい
仄かに甘い泪を僕に


***

著者:星崎すず様