丸い月が見え隠れする、僅かに霞んだ紺色の下。
ポケットに両手を突っ込み歩を進める志季の後ろを、少しだけ距離を空けながら歩いた。
「…おい」
突然、それまで無言で歩いていた志季が足を止める。
「何ですか?」
「何ですかじゃねーよ。さっきから何だよそのあからさまな距離は」
「え、あ…」
だって恥ずかしいんだもん、とは言えなかった。
志季の隣を歩くだけでドキドキしてるなんて。
そんなんバレたら生きていけないよ。
「お前さー、まだ怒ってんの?」
「何が、」
「さっきのキス」
「キッ…!?」
何を言い出すかと思えば。
あなたはまた蒸し返す気ですか!
人がせっかく無かったことにしようとしてたのに。
「つーかそんな嫌ならさぁ」
クシャッと、自分の頭を掻き乱して。
「俺の前であんな顔、しないでくれる」
───は?
ちょっと待て。
意味が分からん。
あんな顔ってどんな顔?
「…あの、よく意味が」
「はぁ。分かんねぇならいいわ。一生考えてろボケ」
「はぁぁぁあ!?」
ボケって何!?
人に不意打ちのキスなんかしやがった癖に、最後にはボケ扱いですか?
どんだけ自己中なのよ、この人。


