「な、な、な、何するん…」
顔中が、特におでこの真ん中が熱い。
多分今なら、私の顔で卵も焼けるはず。
不意の出来事に慌てふためく私を、志季はただクスクスと笑いながら眺めていた。
「お前、顔真っ赤。きもー!」
ププーと吹き出しながら、志季はお腹を抱える。
──からかわれた!
カァッと全身が熱くなる。
頭に血が上る。
「志季先輩!酷い!」
「何だよ。別にチューの一つや二つしたって罰当たんねぇだろ?唇にしたわけじゃあるめーし」
「そうじゃなくて…」
そうじゃなくて──…
人をおちょくるのは止めてください。
物凄く心臓に悪いです。
…そう言いかけて、やめた。
今はそんなことしてる場合じゃなかったんだ。
志季の真意なんて、どうせロクなことじゃないだろうしね。
未だクスクスと笑い続ける志季を無視し、スタスタと玄関へ足を運ぶ。
触れられた額はまだ熱いけど。
どうせ、あのキスに特別な意味なんて無い。
だとしたら、深く考えるだけ無駄な気がした。
いちいち踊らされて浮かされてちゃ、心臓が何個あっても足りないっつーの!


