「肉じゃがが大変なことに!!」
母さんに鍋の中身を見せながら、蜜葉は泣きそうな顔で言った。
「あら~、見事に真っ黒焦げねぇ」
驚くこともなく母さんは淡々と返す。
料理なんてしたこともない蜜葉が、最近になって急に料理を始めた。
なんでかは知らないけど、とりあえず失敗続きってことは確かだ。
魚をほぐしながら二人のやり取りを見ていた俺の視線に気付いたのか、蜜葉が鍋をほん投げて駆け寄ってくる。
「たかにぃーーー!!」
「ちょっ、こっち来んな!」
右手に箸を持ったまま俺はテーブルの周りをグルグルと逃げ回る。
昔から蜜葉は、八つ年上の俺を“たか兄”と呼びながらいつも俺の後ろを歩いてた。
高校二年になって、身体は……まぁそれなりに成長したけど、泣き虫なのは未だに変わらない。
正確には“俺の前では泣き虫”か。
普段我慢してることも、俺といると我慢がきかなくなって泣いてしまう。
「たかにぃ……」


