「えっと、ナナオさんですよね?」


少女が緊張気味に聞いてくる。


「ああ。あなたの街の便利屋・ナナオです」


ナナオ、とは仕事で使っている偽名だ。


「これ」


ポケットから四角い板チョコのケースを取り出す。


「チョコ、持って来たよ」


今時中学生でも知っているような隠語を使い、それを少女に差し出す。


出所は企業秘密。というか智徳自身も知らない。


知ることは容易だが、そうしないことで自分の身の安全は確保できる。


「・・・はい」


少女は封筒を取り出し、紙袋と交換する。


智徳は封筒を開け、フクザワが印刷された紙切れの数を確認する。


「・・・ん?」


1枚足りない。


「・・・約束では3枚だったはずだが?」


腹から声を出して、怒っている自分を演出した。


金銭面で妥協するわけにはいかない。


「ご、ごめんさないっ」


少女は慌てて、財布から紙幣を1枚差し出す。


「ありがとう」


中性的で魅惑的な声が響いた。