「海につれてって。」


昼飯を校舎裏で食べてると、カナが目の前にいた。


今や学校でのけ者なオレに構ってくれる数少ない人間。


「海が見たいの。今日バイクできたんでしょ。」



すらっとした足にうっすら日焼けができてる。
最近陸上始めたらしい。




「なんで?海?」
「人間は誰でも海に帰りたがるの。自然な生理現象よ。」


ストレートな髪が肩にかかる。
カナはたまに変なヤツだ。

そこに少し惹かれてたんだけど。
サッカーまだやってたらカナと付き合えてたんだろうか。




放課後カナをスクーターの荷台に乗せて海へ向かった。



うちの高校は大抵の生徒が原付バイク通学が可能だ。
田舎だから家が遠いしバスがほとんど通ってない。


国道を真っ直ぐ突っ切れば10分くらいで海につく。
しかしこの町はホントに車が通らない。


人が少ない。
遊びは限られたものしかない。
噂はすぐに広がる。
良い噂も悪い噂も。


今やオレにとってこの町にいることは拷問だ。



夏の温い風がまとわりついてくる。


首に、背中に、頭の中までも。
蝉の声と犬の死体に群がるハエの羽音が響いてる。
太陽はギラギラと体を焼き、
思考がボーッとする。


汗が吹き出す。
カナも汗を掻いてる。
オレの腰に回した腕がうっすら光ってる。


首から汗と香水の匂いがした。


このけだるさとカナも一緒に
目の前の見えない壁に激突したらスカッとするのかな。



「着いたわ!」
気が付くともう海に着いてた。