「汐音(しの)、ありがとう」
手に持ってあるチョコレートが、
今日がバレンタインデーだと
いう事を示している。
目の前でにっこり微笑んで、
あたしの渡したチョコレートを
持っている拓也(たくや)。
そのまま近づいてくる拓也の顔に、
当たり前のように瞼を下した。
「じゃ、俺部活いくから」
名残惜しげに離れていった唇とは
裏腹に、あたしの心には
ぽっかりと穴が開いていた。
ねえ、拓也のあの唇は
あたしが触れるまで、
誰が触れていたの?
「嫉妬」なんて言葉、
とっくの昔に捨て去った。
でもうんざりする事実、
拓也は浮気者なんだ。
あたしと付き合ってくれたから、
他の女のことは
縁を切ってくれると思ってた。
でも……。
「ここ、学校なのにあんなキスして。
先輩って意外とアレなんですね」
クスリと笑う声がドアの方から聞こえた。
っ誰!?
まさか自分のキスシーンを見られるなんて、
思ってもみなかったあたしは
ビクリと肩を揺らした。

