「…、はい?」


「だから、女性の好きなタイプ…」


「聞こえてますよ」



予想通りの反応だ。

手元を細かく動かしたまま、あしらうように話していたユキ君は、私の無言の視線に耐えかねたのか手を止め、こちらをチラリと見てため息をついた。


「少なくとも先輩みたいな人はタイプではないです」


「失礼な!私のどこに不満があるのさ!」


「好きとか嫌いとか、そういう下らない事に構ってる余裕ありません」



なんというクールガイ。
なんだろうこの敗北感。
たかが15・6の子供のくせに、ちょっとマセすぎではなかろうか。

返す言葉が無くなり、私が話さなくなるとパソコンのキーボードを叩く音だけが部屋に小さく響いた。

雑用は割と私がやってしまうのだが、こういう“文章”を組み立てたり、“プログラム”を構成する能力は皆無な為自然にユキ君に任せっきりになってしまう。


悪いとは思っているのだが、私にパソコンを人並みの速さで打ち込むスキルはない。



「そう言えばさぁ、海ちゃんと出会ったの桜の木の下なんだって?チョーロマンチックじゃん」


沈黙に耐えられない私の悪い癖。


「俺は悠の事、もっと前から知ってましたよ。面識こそありませんでしたが」




悠に聞いたんですか、と付け加えたユキ君の視線はパソコンに向いたまま。

へぇ、なんか、凄いな。

意味もなく感心する私をよそに、彼は言葉を続ける。




「ある日突然空席になったら、誰だって気にするでしょ」



「まぁ、そりゃそうだ」




「だから、探して言ってやったんですよ。“真面目に授業出ろ”って」




うっすらと、ユキ君が笑った気がした。


ほんの一瞬だったが、毒気のない笑みを浮かべたのだ。

すぐに真顔に戻り、少々早まったカタカタと言うキーボードの音を聞きながら、私は一人ほくそ笑んだ。



彼が海ちゃんに出会った事を、少なくとも良く思っているって考えてもいいのかもしれない。