「わーい!おれ30てーん!」

ダーツボードには、いくつかのフォーク…ではなく矢。

ハルが漸く三投目を終えた所だ。



「でもとうまみたいに真ん中は無理!ねぇどうやんの?」




すかさずベッドで紅茶を飲む要冬真に振り返り目で何かを訴えている。
やってみて!という子供の目だ。


一応病人なんだから、その辺労れば?とも言いたかったが私にそれを言う権利はないので、フカフカのソファからその様子を見ていた。



「…、ったく」


ヤツは、隣でゴロゴロしている海ちゃんの頭に手を置いて立ち上がった。
その様子を見て、私は思わず手元にフォークがないか確認してしまう。







正直、殺されるかと思った。




久遠寺くんの指が、私の唇のほんの隣にあるクリームに触れる寸前。

髪の毛を掠るように目の前を通り過ぎたフォークを、投げたのは家の主・要冬真その人。

勢い良くヤツに振り返ると、何食わぬ顔でティーカップに手を付けていた。




――…、“仁東鈴夏暗殺計画”…!?




何故か笑いを堪える久遠寺くんを睨み付けながらも、私は恐怖でヤツから目を離せなかった。



間違いない。
ヤツは、私を抹殺しようとしている…!!





「リンちゃんせんぱーい」



「うぉ!」


私は要冬真がハルの所まで歩いていく姿に気を取られていた、というより暗殺される可能性があるので警戒していただけだが、とにかく海ちゃんが目の前に顔を覗かせたので、驚き1センチほど体が浮いた。


私の顔色を窺うように暫く二つの大きな瞳でこちらを見ていたが、突然ニコリと笑ってソファに飛び込むようにして横になり私の膝に頭を乗せる。



ダーツボードの付近では、ハルに無理やり誘われた久遠寺くんとユキ君も立ち上がって話をしていた。


久遠寺くんはともかく、ユキ君は露骨にイヤな顔をしているがそれはそれで面白い。


私が気付かれないように笑うと、それを見ていたらしい海ちゃんが不安げに声をあげた。


「リンちゃん先輩、リンちゃん先輩は…、すきなひと、いる?」