私個人の素性が知れた所で大したことはないのでどうでもよい。
ただ、あまりにも陰湿なやり方は少々気に食わなかった。
後ろで手を引くやり方も、唆される人達も。
だから、酒々井さんのことは一生“撫子”と呼んでやろうと思う。
そうこうしているうちに、予鈴がなり彩賀さんは教科書の準備をするために席へ戻っていった。
時計の針は八時半を過ぎ教室に空席がなくなっていく中、私の二つ前の席にまだ誰も座っていないことに気付く。
要冬真の席だ。
いつもならこの時間には着席しているはずなのに、可笑しい。
「ハル、あいつがいないよ」
「あいつ?」
「ほら、あいつ」
私が空席を指差すとハルは納得したように一つ唸り、鞄を漁りながら答えた。
「とうま、風邪だってー」
「風邪!?ナルシストって風邪引くの?」
「引くよー!リンのが移ったんじゃない?」
あの、細菌やウィルスさえも寄せ付けなさそうな態度の人間が、風邪などという軟弱なモノに蝕まれるなんて!
ちなみに私は移した覚えがない。
技術学芸会の後、朦朧とした状態で要冬真に送ってもらったらしくその辺りは全く覚えていないのだ。
ただ、目を覚ますとヤツが肘をつき此方を見下ろしていたのが、夜中の1時頃。
驚いて起き上がると、自分の手がヤツの腕をしっかり掴んでいることに気付き、青ざめて顔を上げれば長い睫毛が此方を見下ろしている。
『…ったく、やっと起きやがったか』
こちらを責める様子もなく、サッと立ち上がると要冬真は「早く治せよ」と付け加えて家を出て行ってしまった。
――…これが土曜日の話
「…、あれ?移したの私じゃね?」
「だから言ったじゃーん!可哀相にーとうま」
「うっ…」


