「な・で・し・こ・ちゃーん」


「…、何度言ったら解るの?私は酒々井茜【シスイ-アカネ】。何よ撫子って」



私を嫌そうに見上げた大和撫子は、長い黒髪をサラリと揺らして顔を逸らした。

なんだかんだ、話しかければ答えてくれるので嫌われているわけではないらしい。


「口の裏側火傷すると、ベロって皮剥けるよね!」


「…」









「すげー、リンの臆しない態度!酒々井ちゃんチョー嫌がってんじゃん!」


「なんで!!私にはあんなにフレンドリーに話しかけてもくれないのに…!」



「ただいま!あれ、なんで彩賀さん泣いてんの?」



私が撫子ちゃんの所から戻ってくると、彩賀さんが何故か泣いていた。




怒涛の技術学芸会から明けて月曜日。
教室はすっかり元のサイクルに戻っていた。

変わった事は、私が少しだけクラスに溶け込んだこと。

私に嫌がらせをした女子三人組は、同じクラスの酒々井茜率いる要冬真を守護する討伐隊の一部で、どうやら何者かに指示されて事件を起こしたらしかった。


これは、彩賀さんが彼女達に吐かせた供述だ。


指示は、全て手紙によるものだったらしい。

元々気に食わなかった私に、手を出すことが出来なくて悶々としている彼女達の所に、手紙が届いたそうだ。




私が、要冬真の財産を狙って近づいている。
色目を使って誘惑している。
制裁を加える事を正当化するような煽り。

そして、私が暗闇を大の苦手としていること。





勿論、一番下の暗闇の件以外はハッタリである。


誰がいつ何処で色目を使った。

人違いも良いところ、いい迷惑である。



「でも、不思議ですわね…鈴夏さんが暗闇をお嫌いな事を知っているなんて…。私だって初耳ですわ」


「要冬真のオタクが調べたんじゃないの?熱狂的なの居るじゃん。ロミオの生写真、飛ぶように売れたんでしょ?」


「まぁ、ここの生徒は皆様金に物言わせてますから。調べるのは簡単でしょうけど」