久遠寺くんと舞台に戻ると、袖には出演者や監督、とにかくクラスメートがほぼ集合していた。


皆、此方を見ている。




「ご、ごめんなさい!!!」





誰の目も見ることが出来なかった。
すっぱり90度に下ろした頭を上げてみんなの顔色を確認する勇気はなかった。

私がここから居なくなって恐らく10分強。
本来ならラストシーンの終盤だ。


「サル、何勘違いしてんだ」



要冬真の声。
ここに居るということは舞台は今、行われていないという証拠だ。



「さっさと準備しろ」



「…、へ?」



「技術学芸会実行委員長が状況を把握して、異例の10分休憩を入れてくださいましたの」



彩賀さんが、嬉しそうに汚れた私の衣装の埃を払った。

実行委員長…?


そんな人居たの?



「お前、やっぱり慧に仕事任せっぱなしだったな…?」



「て、…手伝ったよ。少し」



「書類を提出したりなんなりで、実行委員長とは顔を合わせている筈なんだがな」



要冬真は、鼻で一回笑って私の両頬を勢いよく引っ張った。


「いひゃい!」


しかし、よく考えてみれば書類を提出するなどの類は全部ユキ君に任せていた気がする。



「あは、あははは」


「ったく、後で礼でも言っておけよ。お前を捜すのまで手伝ってくれたんだからな」



「はぁ…、なんだか色々お世話になります」



「春、桐蒲にサルは捕まったって連絡しとけ」



「はーい」




なんだかよく解んないけど、実行委員長良い奴!!

委員長といい実行委員長といい、“長”が付く人は良い人ばっかだな!



「おい、じゃあスタンバイしろ」



要冬真の声で、クラスのみんなが一斉に声を上げる。


「てめぇも早くしろサル」



前言撤回!!!




「さて、衣装係の私は、イタズラ鬼の討伐でもいたしますわ」



彩賀さんが、天使の様に微笑んで私にクルリと背を向けた。




「鈴夏さん。安心してラストシーン、演じてきてくださいね」