煌びやかな衣装を着て、埃臭い倉庫に一人きり。
「誰かー!いないのー!?」
叩く度揺れる汚い扉。
金持ち学校に不釣り合いのここは、使われなくなった機材や道具など何年も誰かが立ち入った形跡はない。
とりあえず、埃が凄い。
というか、さっさとここから出なければみんなに迷惑がかかる。
最後のシーンなのに、私が居なくちゃ進まない。
それよりなにより…
「暗いとこイヤァァァァ!!!!!」
勢いに任せて扉に拳を何度も叩きつけるが、虚しく籠もった音が響くだけ。
小学生の時、体育倉庫に半日閉じこめられて以来、暗闇は大の苦手なのだ。
寝るときも、小さなポッチ電球は付けないと眠れない。
お化け屋敷のお化けは平気でも暗闇が嫌だ。
ほんの気休め程度の月明かりなんて信用出来ない。
昔、泣き虫だった私の泣いた顔を見たいが為に嫌がらせを続けた幼なじみが元凶だ。
今思い出しても腹が立つ!あの泣きボクロ野郎が!
「あいつのせいでぇぇぇ!怖いじゃねーかよ!!!」
両手を思い切り鉄の扉に叩きつける。
寒さと孤独感は、容赦なく此方を潰しにかかっていた。
たかが暗闇と言うだけで、胸がざわつく。
体中の関節が痛い。頭が痛い。
――…心が、痛い。
こんなところで大人しく閉じ込められていたら、演劇だってラストシーンまで辿り着かない。
「…、怖いよ…」
頭の中は、恐怖心と焦燥感と、とにかく色んな感情でぐちゃぐちゃになっていた。
泣くな、泣くな泣くな泣くな。
泣かないって、決めたじゃないか。
不安に潰されて泣きじゃくる私を、抱きしめて「お前は悪くない」と繰り返した親父の声は震えていた。
強い女になりたい。
支え合って生きていくはずのヒトを失った親父には、私しか居ないのだ。
幼いながらに学んだ。
涙は、誰かを悲しませるだけだって。
それなら私は、何が何でも笑っているべきなのだと。


