彼女達に連れられやってきたのは、会場の隅にある小さな倉庫の前だった。


私はそれに背を向ける形で立ち、彼女達は向かい側で綺麗に並んでいる。


「はやくしてね、もうそろそろ出番だから」



5月だというのに、人気がない場所だからか気温が低いらしく酷い寒気がする。

舞台や袖は照明やら人口の多さで体感温度があがっていたらしい。



「わたくしたち、アナタが気に食わないの」




中心に居た、黒くて長い髪の女が腕を組む。

彩賀さんがフランス人形なら、こちらは日本人形といったところか。

純和風。大和撫子。そんな言葉がピッタリである。



「私もあんた達気に食わない。じゃあね」



出番はもうすぐそこなのだ。

こんなところで油を売っている暇はない。
しかも寒いし。



「どいてくんない?」




私が一歩前へ出ると、大和撫子も一歩大きくこちらに近付いて目の前にやってきた。

キメの細かい肌が、よく見える。
私と変わらない身長。
大人っぽい口元。


綺麗な顔をしてるのに、どうして要冬真なんか…。



「…」



まぁ、なんか優しい所もあるみたいだし!?別にいいけどね!!!



「あなたは、ここで大人しくしていてくださいね」




少し、少しだけ要冬真に気を取られていた。
大和撫子の側近と思わしき二人は、消えたと思ったら私の背後に。

大きな金属の擦れる音に、私が驚いて振り向くと、体を勢いよく押されよろめき、尻餅をついた。


視界は、真っ暗な空間と扉から覗く小さな光。




「ここで、大人しくしていなさい」



「ちょっ…!なにすんのよ!」

立ちあがった瞬間に扉の隙間から見えていた人一人分の外の光は、完全に消えてしまった。

急いで扉に近付いて開けようとしたが、外から鍵が閉められた音が響く。



完全に暗闇になった空間に、私は一人取り残された。