「ぐぎぎぎ…」

何度読み返しても腹が立つラストシーン。


横たわるジュリエット。
嘆き悲しむロミオは毒薬で息絶えている。




「最後は、短剣を頭の上まで持ち上げて自分の胸を一突き…、ね」



相手がロミオじゃなくて要冬真だったら小躍りしながら土の肥やしにするのに。


物語も終盤に差し掛かっていた。
残す私の出番は一番最後、様々な花で彩られた棺の中で横になり、ロミオとすれ違い、死を選ぶまでのシーンだ。


何だかんだで、これが本当の意味での最後。

このシーンを演じきれば全て終わるのだ。


頑張った方だと思う。



私的には。




要冬真からの嫌みにも耐えて、小さな頃からこういう場に立たされてきただろう金持ち貴族達に混じって、庶民の私がよく頑張った。

演劇なんて幼稚園時代に桃太郎でサルをやった以来なのだから。



「…、サル…」




小さい時から“サル”だったのか私…!


奴は私を頑なに“サル”呼ばわりするし、名前で呼べよ。と言いたい所だが呼ばれたら呼ばれたで気持ち悪い。




「仁東さん」






不意に、名前を呼ばれて振り返った。

その声は私を呼ぶそれとしては珍しく、初めて呼ばれたような感覚にくすぐったいような気持ち悪いような、不思議な感じだ。



ついにきた。



私は身構えた事が解らないようにゆっくり笑ってみせた。

視線の先には、三人の女が立っている。

敵意剥き出しのオーラに、悪意が見え隠れしているが本人達は気が付いているだろうか。



「なに?」



あくまでも軽いノリで、私は言った。

ラスボスと言うのは、どれも同じ様なタイミングで出てくるものだ。

この時この瞬間、ラストシーンが始まる少し前。

こいつらをラスボスと見ない奴はRPG向いてないと思う。



「相談したい事があるんですが、いいですか?お時間はかかりません」



「あーそー、すぐ終わらせてね」



私がニヤリと笑うと、彼女達は少し眉を潜めて踵を返した。