「どういうつもりよ!」


舞台袖に降りた瞬間、緊張の糸が切れ今し方起きた事の状況を把握して、テーブルの上にあるペットボトルを持った要冬真に一喝した。


「何が」



しれっと外を見る奴のいい加減な態度に、自然と眉間のシワが寄る。

シラを切ろうとするなんて、なんと甚だしい。


「妙なアドリブよ!この変態魔神が!」



思い出しただけで背筋が凍るわ!!
なんですか夜の蝶ですか枕営業ですか帝王ですかなんですか!


「あぁ、あれか。あっちの方が良いと思ったからやった」




ニヤリと、音が聞こえたと錯覚するほど嫌みな笑みは完全に楽しんでいる表情だ。



「対応する身にもなりなさいよ!」



「混乱して対応出来てなかったじゃねーか」




「ぐっ…」



痛いところを!
確かに、今考えて見れば対応の仕方なんて数え切れないほどある。



なぞられた唇を嬉しそうに触るだとか、気持ちよさそうに目を瞑るだとか。


いや、それはちょっと大人向けかな…。



抱きしめられたら、抱きしめ返すとか。


とにかく何でもありだったのに、私は上手いように翻弄され混乱し、蛇に睨まれたカエルのような、何も知らない子供のように戸惑うしかなかった。



久遠寺くんの時の比ではない。



「俺様の勝ちだな」


「ちょいまち、負けてないから。惚れてないから」



「惚れたも同然だろ。いい加減認めろ」




この、人をバカにしたような言い草…!

ころーす!!
完膚なきまでにころーす!!





「誰かー!藁人形くださーい!」





「そんなもん誰も持ってねぇよ、アホか」





こいつ…!

目の前を通り過ぎていく奴に文句の一つでもふっかけようと思ったが、そのまま舞台の方向かっていったので何も言えなくなった。


ちっ…出番か…。



「あ、おいサル」



しかし奴は思い出したように振り返り、こちらに歩み寄ってきたかと思えば私の唇に指を置いて一言こう付け加えた。



「グロス、取れてるぞ」