恐る恐る顔を上げると、ばちりと視線が絡み合う。
彼は驚いたように少し動いたが、すぐ口角をゆるりと上げた。

初めて見た、人を馬鹿にしない笑顔。



目を細めて、愛おしいものをみるような、そんな表情だ。



私には、それが演技なのか、特訓の成果を認めてくれたのか解らないけれど。



高鳴る鼓動と同時に、嬉しくなった。





「ジュリエット…」




ふと、頬に添えられていた右手の親指が、スルリと唇へ移った。





ん…?




まて、こんな動き昨日までは無かった!

ゆっくり、端から端まで撫でるように動くそれと、ちろりと彼の唇から覗いた赤い舌先。

芯が熱くなり途端に息が出来なくなった。






「私は貴方を、愛している…」




体中の血液が動揺を隠そうと一斉に回りだすのが解り、頭が熱くなり指先が痺れ目尻が熱くなる。



「ロミオ…」


呟くのが、精一杯。




「願いが叶うなら、永遠に共に…」


左手が私の頭を柔らかく撫でた。

こんなに混乱したのは初めてで、ふらつく頭をどうにか押さえようと両足に力を入れて踏みとどまる。





「勿論ですロミオ。私も貴方様を、…愛しているのですから」



ジュリエットの台詞が終わると同時に、奴は何を思ったのか私の腕を思い切り引いた。

その為、流石に耐えられなかった体が奴の方にもたれ掛かる。

そのまま奴の腕の中に入り込み、優しく両手が回されたのだ。



ちょっ…!抱きしめるなんてあった!?


ここは長い間見つめ合ってキス(のふり)じゃないの?



いや、ホントにこの人なに私を殺す気だ。


心臓の音で殆ど周りの音が聞こえない。


奴の香水の匂いが鼻を掠めて、抱きしめられていると何度も脳が認識する。


繰り返し何度も、だ。





「ジュリエット…」





彼が呟いた瞬間、私の顎を強引に引き上げて彼の鼻先が一瞬で近付く。







キス。







互いの鼻先が付くか付かないか、タイミングよく舞台は暗転した。