考えてみれば、“惚れた腫れた”の話なら負けない自信があった。
引き分けになるだろうなんて、そんなことを考えていた。

心から誰かに惹かれる以前に、流される、という選択肢は私の中に有り得なかったし、考えつきもしなかったのだ。






初めは順調だった。
パーティ会場で見つめ合う二人。

恋に落ちる瞬間。


周囲はモノクロ、動きはスローモーション、周りの音も聞こえない。



一目惚れを経験したことがない私だが、きっとそうなったらこんな風になるのかなぁなんて。

少し誇張しすぎかのかもしれないけれど。








「ジュリエット…」


彼の声は、知った名前なのに初めて口にしたような震えた声だった。
ゆっくりとあがる綺麗な指に見とれていると、そのまま軽く頬に添えられる。



「嗚呼ジュリエット、こんなにも近くに触れられるなんて」


冷たい指先に、思わずピクリと小さく跳ね上がると彼が小さく笑うのが解った。
ゆっくりと、頬から耳元に伸びる長い爪先が耳たぶを引っ掻いて、聞こえないほどの妙な声を出してしまい思わず口を強張らせる。


(こいつ…わらってる!!)

私が焦っているのが解ったのか楽しそうに笑った奴の口元が視界に入り、慌ててセリフを口にした。



「…私もです、ロミオ」



目線だけで彼を見上げ、服の裾を軽く掴んでやる。

教わったことを思い出しながら、ゆっくり、かみしめる様に、ずっと恋いこがれていた二人がやっと会えたのだから。

もう一度、視線を落として。




「貴方様のお側に…お側にいられるだけでこんなにも心が震えるなんて」



い、言えた…!

スパルタ特訓中、ここだけは何度もやり直させられた私にとっては一番トラウマ的セリフ。
何度言っても要冬真に怒られたので印象に残りすぎているのに、上手く言う事が出来なかった。

でも、本番で初めて一番納得出来る言い回しが出来たと思う。


「ロミオ…」