「脳内変換のバカヤロー!!!」
私は、周囲の雰囲気に堪えられず気分転換を頼み込んだ。
屋上から叫んでみたものの気は晴れず。
何故か雲の流れが速まって空が晴れた。
ざけんな。
「だーれが、
“俺様に真正面から向き合うと惚れちまうから逃げてんだろ”
よ!んなわけねーだろ性格地球一周分曲がってる奴を好きになるわけねーだろ!!」
「全然似てませんね、お嬢さん」
「ぎぃやぁぁぁぁああ!」
完全に一人だと思ってたから…、ちょっと慣れない奴の真似とかしてみたけど…見られてた!?
振り返らなくても分かる。
鈴のような心地よい音とバニラの香り。
久遠寺くんはゆっくりとした足取りで私の横に立つ。
そちらを見上げると、私が手に持っていた台本を緩く持ち上げパラリと開いた。
「悩んでるようですね」
ニコリと口元だけ上がる笑い方が特徴だと気付いたのは最近の話。
「悩んでるってか…まぁ感情移入出来ないっていうか役に入る前に怒りがこみ上げてくるっていうか」
「そしたら冬真にああ言われた、ですか」
久遠寺くんは私に座るように促してから、自分もフェンスに寄りかかって腰をおろした。
その通りでございます。
彼はゆっくりページを捲りながら、一ページずつ読んでいるようだ。
本をよく読んでいる彼のことだ。
ロミオとジュリエットもきっと知っているはず。
「鈴夏さんは――…」
「ん?」
「運命に逆らおうと思いますか?」
「運命?」
「ロミオと、ジュリエットのように」
久遠寺くんはヒラヒラと、台本を泳がせて見せた。
反対されるのが分かっていながら結婚式まであげて愛を誓ったロミオとジュリエット。
結果生まれたのは悲劇と後悔だけだった。
「無理やり結婚させられるなんていうのは、良くある話なんですよね。今でも」


