「“ジュリエット、私はこの距離が憎い。貴方を瞳に焼き付けることも、触れることも出来ないのだから”」


「“あぁ、ロミオ。その想いは私【ワタクシ】も同じこと。出来ることなら、出来るなら私も貴方様に触れたいのです”」




静まり返った視聴覚室。

歩み寄る二人を周囲は息を呑んで見守っていた。




「“嗚呼ジュリエット、こんなにも近くに触れられる”」


「“私もですロミオ。貴方様のお側に…お側にいられるだけでこんなにも心が震えるなんて”」


「“私は貴方を、愛している”」


「“ロミオ…”」


「“願いが叶うなら、永遠に共に…”」



「“勿論ですロミオ。私も貴方様を、”」





私は目を瞑っているに等しかった。
目を開ければ途端に殺意が芽生えるからだ。
甘い香水の匂いが鼻に触れ、思わず台詞が止まる。


脳裏に過ぎる奴の顔。






「ア、…アンドレ」







「カットカット!仁東、目を瞑ってやってもダメ?」


すかさず歩み寄るのは監督兼学級委員長の多田倉夜智【タダクラ-ヨルトモ】。あだ名は委員長。


というか委員長と以外で呼ばれてるのを聞いたことがない。


「すいません…」


「だらしがねぇなぁサル。嫌なものを嫌と言えるほど世の中甘くねぇぞ」


「わぁってるわい!私の失敗を見て何嬉しそうにしてんのよ!」


蛍光灯のスイッチが入り明るくなった部屋で要冬真を見上げると、ダメな私に対してキレても良さそうな奴がニヤニヤと笑っている。


「苦しめ、そして俺様の魅力に手も足も出なかったと不名誉な自分を呪うんだな」


「ぐぎぎ…、だいたいね!あんたの性格が異常なほど歪んでるから演技出来ないのよ!」


そう、いくら奴を今人気絶頂期アイドル“台風”の梅井翔くんに脳内変換しようとしても、それを上回る時空間の歪みから奴が現れる!!


「お前そんなこと言って、俺様に真正面から向き合うと惚れちまうから逃げてんだろ」



こいつ…!