彩賀涼華は、一つ礼をすると拳を構え間合いに踏み込んできた。
意外に攻撃型の人間らしい。
真っ直ぐな右ストレート。
それを避けると、体制を変えてすかさずアッパーが飛んでくる。
攻撃の切り替えが上手い。
私は小さくジャンプして間合いを取ると、彼女が笑うのが分かった。
「避けてばかりじゃ、勝負はつきませんわよ」
左足を軸足にして蹴り出された地面の砂埃に戸惑いながらも、私はしゃがみこみ足払いをかけると彼女は地面に倒れ込んだ。
回し蹴りもなかなかのものだ。
空気が鋭く切れたのだから。
「女の子と戦うのなんて久しぶりだから、加減がわからなくて」
しっかりと型にはまった彼女の動きはある種の芸術のようにも感じた。
今まで自分がやってきた不規則な攻撃とは訳が違う、歴史の重み。
彩賀涼華は、私の見下したような言葉にカチンときたのか、急いで立ち上がり体制を立て直し、スカートの砂を荒々しく払った。
「本気で、私に一発いれてくださりませんとこの勝負終わりませんわ」
音もなく近づいた彼女の動きを流石に読み切れず鼻の頭に入りそうになった拳を間一髪、掌で受け止める。
すかさず繰り出される反対の拳も受け止め、目の前にあった形のよい頭に頭突きをした。
「いて…」
自分から仕掛けておいて、思わず私は声を漏らした。
殴った拳は痛いとはよく言うが、頭突きも負けじと痛い。
まぁ、流儀がしっかりしている格闘技で中々頭突きはしないだろう。
私は喧嘩の過程でよくやっていたから、進化して頭が固くなっているが彼女には刺激が強すぎたようで、そのまま倒れ込んでしまった。
しかも、ピクリとも動かない。
まずい…、これは…私のせいだよな?
「彩賀さん、あの…ごめん」


