「キス」


…?


「キスでいいぜ」


いいぜ?
どういうことなの。
誰が事実確認してちょうだい!
キスって何!?チョコの種類?魚の名前?それとも…接吻!?



「2番でファイナルアンサー!!正解!」


「脳内で話を進めるな」


「いだっ!」


背もたれに肘をかけ私に覆いかぶさる様に見下ろし気味だった彼の手が伸びて額にデコピンを受ける。


「俺がさっきしたやつに決まってんだろ、3番」


「こわ!なんで心を読んだ!」


「読んでねーよ勘だ勘」


勘で当たるとかなんて星の下の男よ!!
恐ろしい子!



「で?」


「ん?」



「俺に日本の風習に適ったプレゼントをしてくれるんだろ?」




さらに近づく距離。
殆ど被いかぶさった状態で私の首元に頭をもたげたヤツは耳に触れる様に言葉を震わせた。
低く甘い声と、同じ匂いに頭が沸騰しそうだ。


「…ぅ…と…」



正しい思考回路が完全にショートして人間ではない声が出る。
自分から、そんな恥ずかしい事…!
抱きつくだけでも苦労したのに…、キキキ…無理たぶん死ぬ。


「…っぷっ…」


「はぇ?」


「顔真っ赤じゃねーか、タコか」



緊迫した空気を取り払う様に、場違いな笑い声が広い部屋に響いた。
我に返ってぐるぐる回ったままの両目に力を入れると、私の上にあった影が消え視界がはっきりしたと同時に見えたのはなんてことないただの天井。

動揺で傾いていた体を起こすと、楽しそうに笑う要冬真の姿。


「そ、そんな笑わなくても…!」


身を乗り出して反論すると、宥めるように私の頭に優しく触れる。




『バレンタインはチョコレートをあげる日ではなくて、想いを伝える日であることを忘れないでください』




瞬間、フラッシュバックのよう過った久遠寺くんの言葉に、私は動きを止めた。
その変化に、彼は不思議そうにこちらを見ているが何か聞いてくるわけでもない。
素直になるのも、気持ちを伝えるのも、私には足りない何かだ。



だから…。



決心するように拳を握る。