つまり今日・殺気に満ち溢れたバレンタインにおいて二人きりになれる可能性はゼロに等しいのだ。



「あの…」




小さく呟いた私の声は、己の心臓の音で全く聞こえなかった。

無言でこちらを見下ろした要冬真の瞳はいつも通りで、特に怒りや他の感情は落としていない。

無表情、が一番近い表現だ。



「今日、チョコレート…沢山貰ってたでしょ?」




遠回しすぎるだろうか。
でもホントなら言いたくない本心が綺麗に言い訳を上から塗り足していく。



「だから私のは…」



いらないかなって。




そう言いそうになって口を詰むんだ。

違う。
嫉妬も焦りも不安も自分のせいだ。
性格の悪い私の逃げ。



「…じゃなくて…」



せめて嘘はつかないで、ホントの気持ちを伝えたい。




「私バレンタインの事すっかり忘れ…!」



「ほらよ」




顔を見上げて張り上げた大声は、要冬真の言葉によって喉の奥でつっかえてゆっくりと滲み消えていった。




「え…?」




ぶっきらぼうな言葉とは裏腹な、気まずそうな視線。
合った瞬間逸らされてどうしたらいいか解らないが、その代わりに差し出されたのは小さな箱だった。



「えっと…」



これは…。




「受け取れよ」



「あ…うん…」




突然のプレゼント。
今日は確かにバレンタイン。
女の子が男の子にチョコレートをあげる日。

しかしこの状況はいくら斜めに考えたって。


私が要冬真から、何かを貰っている。

誕生日勘違いされてんのか?

いや、よくわかんない。
どうしよう




「一昨日、お前の舎弟から突然電話があってな」



「舎弟!?」



誰だ!?マサか!マサの野郎か!




『“はーっはっは!お前もうすぐバレンタインだからと言ってウキウキワクワクしてるだろ!”』


『は?』



『“姐さんはなぁ、色恋に全く興味なかったからバレンタインなんて知っていて知らないようなもんなんだぜ!当日アホ面で泣きを見るがいい!”』