「適当に見繕ったり嘘をついたり、人は形がないものを形にしたがりまけどね、形があるものにとらわれていると大切な事を見落としてしまいがちです」



彼の手は私の首もとまで降りて、毛先を一房指に絡めて遊びだした。



「そりゃ、何か想いがこもったプレゼントがあるなら尚いいんでしょうけど」



「う゛…」




「とりあえず貴方は、冬真に想いを伝えてみるといいですよ」


「え!今更!?いや…今更っていうかあんまり面と向かって言ったことはない…」




ていうか、あれ…面と向かって言ったことあったっけ?
電話とかマイク越しに言ったことはあるけど…あれ、思い出せない!



「バレンタインはチョコレートをあげる日ではなくて、想いを伝える日であることを忘れないでください」




久遠寺くんの手が、私から離れて赤い髪が揺れニコリと笑った。
想いを伝える日、か。


洒落っ気もない袋に入ったチョコレート。
そもそもこれをあげたいとは思わなかったけれど。
柄にもなく焦って不安がっていた原因はもしかしたら、“好き”を伝えてなかったからなのかもしれない。




しっかりしないと。




「で、それは必要なくなったわけですよね?」



「え?」




じんわりとした余韻が残った室内を破るように久遠寺くんが私の持っていたビニール袋を指差した。
突然の話題変更に戸惑いながらも、遅れるように頷くと彼は眼鏡を人差し指で上げる動作を見せて口の端をゆっくり持ち上げる。



「ではそれを私にください」



「あ、あー…いいけど…」



話題変更じゃなくて、これは…。



「食べさせてください」




話題戻ったー!!!




「いや、べべべつにあえてそうする必要も義務も感じないわけで、だだ第一さっきは“冬真には用意されてて”って理由で私は奴に何も用意していないわけだからそんなことしなくても久遠寺くんの気は収まるはずであってそれで…」



しどろもどろになりながらも記憶から集めた言い訳を総動員して怒涛の攻撃を繰り出すと彼は少し考える素振りを見せた。