「…わかんない」




目を逸らし、掛け布団から飛び出した自分の痛々しい足を見る。
清潔な白いタオルの隙間から袋に入った氷が覗いていた。

情けなさい自分を責めるように体温を落とすそれが今は痛い。


「正直に言えばいいじゃないですか、忘れたって」



あっけらかんとした声に、私は思わず体を起こして彼を睨みつけた。
それが出来ないから困ってるんじゃない!
出来ないっていうか、したくないのに!



無言の反抗が久遠寺くんに通じたかは解らないが、眼鏡の奥の緩やかな瞳の色が変わることはなく、起き上がったままの私の肩に手を置いて口を開いた。




「何をそんなに焦ってるんですか」



「え?」



「まるで14日にはチョコレートをあげなければいけないかのような慌てっぷりですね」



「あげなきゃいけないなんて思ってないけど…!」




「けど?」




図星をつかれた上に言葉の端を捕まえられて、途端に自信がなくなった私はいきり立った肩から力を抜いた。

保健医が未だ現れる様子はなく、沈黙が漂っている。


誤魔化そうと久遠寺くんに向き合ったが、彼がそれを許してくれるはずもなく真っ直ぐとこちらを見つめていた。


見透かされた視線。




『とうまかわいそう』


『好きでもない女に貰って媚びうる主義じゃないからね』



『幻滅されて即破局よ』





「だって…」




ようやく絞り出した声が喉を震わせた。




「なんか…不安だし…」



「はい」



「別に…イヤじゃないけど他の子からは貰ってるし」



「そうですね」




「なんかよくわかんないけど…焦る…」




「アホですかアナタは」





「アホ!?」




「誰に何吹き込まれたかしりませんが、大切な事を忘れちゃダメです」




久遠寺くんの声と、優しい笑顔に毎回落ち着かせれている気がする。
落ち着くというか、許されている感じ。

彼の手がゆっくりと私の髪を撫でていった。