気付けば屋上に居た。
なんだろう、もうなんか逃げるときは屋上って私の骨髄が認識しているらしい。
という訳で4時限目の授業はサボリだ。
まず、1時限目の休み時間に呼び出されて廊下へ出て行くのを見て、2時限目の休み時間に以下略、3時限目の休み時間ついに居たたまれなくなり教室を退場した。
「なんか…みんなヤツの事好きなんだなぁ…」
いや、そんなことは知ってたけどさ。
バレンタインって言う法律で定められてもいない行事を真剣にこなすあたりに、気負いしてしまうわけで。
私もそれなりに真剣なのに、何も用意出来てない自分が負けたみたいで悔しいのだ。
想いの証明が、チョコレートという簡単なもので示されるなんてこれっぽっちも思わないけど。
2月14日に渡すから意味があるんだと思ってしまう私は、十二分に恋する乙女なわけだ。
チョコレートはある。
思わずそのまま持ってきてしまった支給品を袋ごしに眺めながら、遠くに聞こえるチャイムを聞き流してフェンスにもたれかかった。
14日に固執してる私ってどうよ…。
「こんな事考えてばっかいたからもう昼休みじゃないか…」
こんな事で悩むなんて、随分弱くなったものである。
「…、あ」
昼休み!?
これはこれは、ヤバいんじゃないか?
昼休み+屋上=18禁
即座に脳内で作られた方程式が不気味すぎて、そしてリアルすぎて、北風と一緒に身震いをする。
そうだよ、危ないよ早くここから去ろうアイツラが来る前に。
私は預けていた体重を起こし、早足で出口へ向かった。
ノブを掴もうとした瞬間、触れてもいないそれが唐突に回り鉄色だった世界に黒と灰色が過ぎる。
グットタイミングすぎて、自分を呪いたくなった。
驚きのあまり氷像と化した私を冷えた目で上から下まで観察した女の子らしい甘い瞳が、ニンマリと笑顔に変わる。
「あれ?鈴、待っててくれたんだ」
沈黙を割るように広がった声は愉しげに弾んでいた。