それから逃げるように視線を逸らした私に対して、何か制裁が加わるわけでもなく授業は始まった。
エスカレーター式の進学校とはいえ、形式上入試を控えたコノ時期に授業は当然必要になるのだが、ハルの話によればよほど酷い点数を取らない限りは問題なく合格するとのこと。
それは周知なようで授業自体に緊迫した空気は無く和やかに行われている。
――…ていうか…普通彼女居る男にチョコあげるか?
そして進路は実家のラーメン屋と決まっている私にも当然授業を聞く意義は薄れており、そのお陰で忘れられていたバレンタインで頭がいっぱいだ。
それって何か?
みんな諦めてないって事だよね。
確かに凡人と貴族だから、破局は早いとか思われてるのかも。
失礼な話だよ!
ていうか腐るほどチョコレート貰うなら私がわざわざ用意する必要なくない?
大体アイツは私の…
「……、!!」
何この汚いノートは!
まくし立てるような思考の後、我に返るとノートの欄外はシャープペンでグルグルと書き散らかされブラックホールのように黒く滲んでいた。
はっ!!
っていうか私…。
なんかアイツのジャイアニズム移った?
なんかダークサイドに落ちた?
もうダメなんじゃない…?
「…、恋愛って恐ろしい…」
両頬に手を添えると、それだけで分かる顔の歪み。
バカ!そんな薄汚い事エトセトラを考えてる場合じゃないでしょうが!
当面の問題は!
この!
チョコレート!
私はハルから支給されたチョコレートを睨み付けた。
どうしよう。
正直にバレンタインなんか忘れてましたって言うべきなんだろうけど…。
『とうま可哀想じゃん』
不本意ながら要冬真に嫌な思いはさせたくない。
バレンタインが勝手に世間で定められた下らない行事だとしても。
「はぁ…」
何がベストなのか、イマイチわからない。