「いやだ鈴夏さん!野暮な事をっ」



「おれなんか部活ではやくきてたから運ぶのてつだわされたんだよー」



テンション右肩上がりで背中を平手打ちしてくる彩賀さんを尻目に席についてマッタリとゲームをやっていたハルは、楽しげに私へ声をかけた。


背中の痛みに耐えながらも、彼に助けを求めようと目を落とすと、癖毛で流れた明るい髪が揺れる。



「リンのことだからぜーったい忘れてると思ったんだよね!」



脇に掛かっていた通学カバンに片手を突っ込んで中を探っているようだ。
やがて目当てのモノにたどり着いたのか意気揚々と腕を持ち上げる。




「…、?」




机を挟んで差し出されたのは透明なビニール袋で、それの半分を占める形でビー玉大の包みが入っていた。
何故かオモチャの拳銃らしきものを添えて。


ハルは丸い目を三日月に緩めて袋を揺らす。
大人しく受け取ると、彼はゲームに視線を戻して私の様子を確認するようにもう一度顔を上げ、未だに恥ずかしいだのと照れている彩賀さんをチラリと横目で確認した後、満足げに口を開いた。




「きょうバレンタインだよー」


バ…




「ばじりすく?」





「えー“バ”しかあってないじゃーん!バ・レ・ン・タ・イ・ン!」


口を尖らせ言い聞かせるように彼をゆっくりと言葉を紡ぐ。



「バレンタイン…」



とりあえず口に出して発音してみた。
異常すぎる違和感。




「あーあの野球の監督か…」




現実逃避も甚だしいと思われるかもしれないが、とにかく事実確認が必要な事項だ。



私の知る“バレンタイン”は野球の監督、あるいは葵から強引にモノを取られる日、の二つしかない。

さらにハルの言うバレンタインが後者の場合もっと厄介な問題が…



「お慕いする方にチョコレートをお渡しする日ですわ」




「!!」




私は戦慄した。





「うわー!おれベタフラッシュ初めて見たー!」



「ですから私も鈴夏さんにチョコレートを…!きゃー恥ずかしいですわっ…」