学校の違和感に気付いたのは、校門をくぐり抜けた直後だった。

いつもより活気だって見えるのは気のせいではない。
数人で登校する生徒は尚更盛り上がっているように見える。




私は悴む指を擦りながら、生ぬるい空気の中を縫うように歩いていた。



「…ね、きょ…どうする?」



時々耳に入る断片的な会話。
同じような内容があちらこちらから聞こえてくる。



「よっ!仁東おはよ!」



前庭をおおよそ半分まで進んだ所で名前を呼ばれて振り返ると、ブレザーにマフラーを巻いただけの委員長が白い息を弾ませて立っていた。


「おはよ、朝から何で息上がってんの?」


「遅刻しそうになって走ってきた」



ゆっくり歩き出した私に合わせて、彼は隣に並ぶ。

右手に彼らしくない花柄の紙袋を見つけて思わず声をあげた。


「委員長」


「ん?」


「なんでそんな可愛い紙袋持ってんの?」




振り下ろすように指を指して指摘した瞬間、委員長は音を立てて顔色を変えた。


それも、真っ赤だ。



顔を見られないように背け暫くあらぬ方向へ目を泳がせていた委員長は、無言のまま見上げていた私へ一瞬視線を落として軽く頬をかいた。



「いや…他校のバレー部のマネージャーに貰った…」




雑踏に紛れてしまいそうな声で観念したように呟く。
今日の昇降口はいつもの二倍は賑わっているので余計聞き取りづらい。



ははーん!

遅刻しそうになった理由はそれか!



何とも古典的な閃き方をした私は、恥ずかしそうにローファーを下駄箱に放り込む彼を見て思わず顔を緩めた。


「へーへー!委員長モテるんだ!へーへー!」


「バカ!うるせぇよ!」


苦し紛れの照れ隠しが何だか可愛い。


「何々?委員長誕生日かなんか?」



どんどん先へ行ってしまう委員長の元へ駆け寄って顔を見上げると、未だ耳を赤くしたままの彼が私を見下ろした。





「ほら…、その…今日14日だろ…だからだ」





14日?