いつも通りの朝。
目覚ましが鳴ってから布団から出るのに躊躇う時間は約数分だ。

それは私が意を決したからとか、堕落した己を悔い改めたからとかではなく。





「起きなさい鈴夏さん、朝ですよ」





「…お、おはよう…」




数ヶ月前偶然隣に越してきた私の元執事・現喫茶店ウェイターの深月さんが小姑のようにクソ寒い朝を演出してくれるわけで。



「全く、本当に貴方は一人暮らしが向いていないですね」



無表情でため息をついて爽やかに掛け布団に手をかけ私の上から剥がすように持ち上げた。




「だから私と暮らしましょうと申し上げましたのに」





短く切られた、昔の彼らしくない青い髪が素早く踵を返す。
その短い髪にようやく慣れた所だが、深月さんの世話のやきっぷりを見ると馬の尻尾のような髪の幻覚を度々見るのだ。




…髪を切って転職しても私の執事か…




正直朝ご飯とか作ってくれて助かるんだが、どんだけ世話好きだよと思う事もあるわけで。

ご飯をよそう彼を見ていると、根っからの執事体質、っていうか、執事になる為に生まれてきました的な!?



しゃもじを持つ姿が様になりすぎていて怖い。

完全にお母さんだよアンタ…。



「…お母さんって、呼んでいいですか?」
「却下です」




返しはカンマ1秒だ。




こんな感じで私の朝は始まる。
深月さんは私が卒業したら実家に帰ると知ったが否や、こんな奇行を取り始めたわけだが、やはり執事体質が私という出来の悪い主を求めているのだろうか。




――…4月でお別れだから寂しいとか思ってくれてんのかな




まるで無表情の深月さんは、今日も無言で納豆をかき混ぜている。
なんでも納豆は体にいいらしい。


私がその様子をジッと見ていると、納豆をかき混ぜ終えた彼の箸先が止まり、此方に顔を上げた。




「鈴夏さん」



無表情。



「あ、はい」




深月さんは箸を置いて体の脇に手をやり何かを持ち上げ私の目の前に差し出した。