「…、あぁ。こっちは心配ない。…。そうかよ、はいはい好きなだけ買ってやるから、じゃあな、切るぞ」



少々機嫌が悪そうに話す要冬真の相手は誰だか分からないが、携帯電話をたたんで再び沈黙した車内に、私は思いきって話しかけた。



「ねぇ」


「…」



「ねぇ!」



「…、んだよ」


「どこいくの?」


「俺んち」



ヒィ!


放り込まれた要ベンツの後部座席に座る私と要冬真。

なんでこの流れで家なの!?
じゃなくって!!



「久遠寺くん、いいの?」



勢いで飛び出してきてしまったが、会場の人達と久遠寺くん、深月さん、色んな人が迷惑を被っているはずだ。
自分が何をしたか、振り返ってみればとんでもない。



「今星南から連絡があってな。秋斗がまるで初めから全て解っていたかのように丸く収めたそうだ」



まんまと踊らされた、と眉を顰めて腕を組んだ彼を盗み見ながら、さっきの電話は右京だったのかと一人で納得する。


『これが最後のキッカケです』

優しく笑う久遠寺くんの顔を思い出し、さらに去り際驚きもせず手を振って送り出す辺り、こうなることが解っていた証拠なわけで。

で、目出度く私は今要冬真と二人き――…




「り!?」



「?」



私が妙な声を上げたからか、流れる外の景色を眺めていた要冬真がこちらを振り返った。



『お前の事、好きだって言ってんだよ』



「ひぎゃー!」


「は?」



顔から頭から、体内が沸騰して大きな鈍い音を立てるのを誤魔化すように叫び声を上げると要冬真はますます怪訝な顔をする。
そして何を思ったか、顔を下から覗きこみ真っ直ぐな視線を向けた。


「いぁ、あの…あんま近付かないで!」



座ったまま後退り、背中に当たったのは窓と車のドア。


狭い!


金持ちの車のクセにもう逃げられない!
顔面から火が出そうなほど熱い、絶対顔真っ赤だ。
死んだ!私今一回死んだ!


体中の血液が一気に循環して心臓が痛いほど早く打ち付けている。


二度目の死はそう遅くない!