副会長がチラリと司会者に目配せをすると、彼が小さく頷くのが分かった。
前の席で慌てる重役達に視線を下ろし、副会長は子供をあやすような笑みを浮かべ、眼鏡をかけ直す。



――…若干18歳にしてあの大人びた表情。ありゃあすでに会社を支配しとるな。恐ろしいやっちゃ




「“私の幸せは、愛する人の幸せ。
それは当然の考えです。
愛し愛される二人はお互いに、そう思っているはずですから。
しかし幸せになって欲しい、では駄目。
愛し愛される二人が願わなければいけないのは自分の幸せです。
愛する人の為にこそ、自分が幸せにならなければいけない。

そうして二人は二人の為に幸せになると思うのです。
私の愛する人は、私と一緒になっては自分の幸せを願えない、そう感じました。
彼女が自分の幸せを願えるのは、たった一人の私ではない人間でしたから。
そうして彼女が誰より幸せになれるように、そう思っての決断です。
今回、そう、愛に従ったこの決断に快く承諾してくださった升条様には深く感謝いたします。
そして、次回のプロジェクト、私の名にかけて必ず成功させると誓います”」





長い長いスピーチは、彼が席を着いた瞬間暖かい拍手に変わった。
周囲からは感心する声が聞こえる。
出来過ぎたセリフ、出来過ぎた男。



あいつ、ほんま18歳か?
悟り開いてんねんぞあれ。
好きなもの簡単に我慢出来るほど、俺達は大人やない。
18歳という中途半端な区切り、AVは借りられても酒は飲めない。



ほんの中間地点。



この言いくるめられた状況に、誰も文句は言えないだろう。
副会長――…いや、久遠寺秋斗は、俺の想像を遥かに超える中途半端な大人だった。
幼少時代の躾の賜物か、要冬真を影で支え続けた男。
表舞台に立たず、裏で人間を支配する器。



――…今回の奪還計画も、全部知っとったなさては




というよりは、きっと――…




「副会長!」