は!!
私を呼ぶ彩賀さんの声!
幻聴?天国からのお迎えか!
やっぱり死ぬのか!私!
「助けにきましたわ!」
指笛の効果で、塀からひょっこり顔を出したのは塀をよじ上る定番“泥棒”ではなく彩賀さんだった。
平然と塀に足を掛ける姿はたくましい。
それに遅れてもう一つ形のよい頭が顔を出す。
「げっ、葵」
「何?助けにきたのにその言い草はないんじゃないの?」
葵はかなり不機嫌そうだ。
二人とも流石と言うべきか、いとも簡単に塀を飛び越え草むらに着地する。
「ここは私たちに任せて、お逃げください!」
「あーあ、体動かすの久しぶりだなぁ」
楽しそうに振り返る彩賀さんと、面倒くさそうに肩を回す葵。
追いついてきた警備員を投げ飛ばしたり蹴りを入れたり、やりたい放題だ。
彩賀さんは手加減しているみたいだけど、葵は結構本気じゃない?
恐らく転校してから久しく体を動かしてないからだろう、鬱憤を晴らすように鈍い音が響く。
それに葵は、誰かに指図されて動くような人間では、決して無い。
「なんで僕が、他人に指図されなきゃいけないんだよ!」
…、やっぱりムカついてたんだ。指笛で召使いのごとく呼び出されたのが。
そんな対照的に二人を見送りながら、私は何となく空を仰いだ。
その間も、警備員達の痛々しいうなり声が聞こえる。
「…」
惨い…、見なかった事にしよう。
そうしてそらした視線の先に規則正しく並ぶ窓が見えた。
同じデザインのそれ、さっきまで自分があの中に居たなんて信じられない。
それに。
鼻をくすぐる甘い香りが、嬉しい。
ふと、二階の部屋から、誰かがコチラを見ているのに気がついて目を凝らした。
その影は窓に手をつけて私と目が合った瞬間、ニコリと優しげな表情を浮かべる。
「久遠寺くん」
私が呟いたのが解ったのか、窓から小さく手を振ってみせたのだ。
――…上手く逃げ切れそうですね
そう、言っている気がして。
どうしようもなく胸が苦しくなった。


