「鈴夏様、メイクされているときもずーっと上の空なんですよ。体調がよろしくないんじゃないでしょうか」


「朝からあれです。体調は問題ないですし、少し現実逃避されてるようなのでお気にならさず」



なんとも用意周到なことに、私と久遠寺くんが泊まったホテルは“婚約ならびに新プロジェクト発表会見”だかなんだかの会場だった。
白い清楚なワンピースに、ボレロ。こんな踵の高いミュールは初めて履いたわけで、女の私が何故身長を誤魔化さなければいけないのがひどく疑問だが、これしか用意されていなかったので仕方ない。

化粧も、未だかつてない量の科学物資を塗りたくられ笑いづらい睫毛が重いなどの症状に見まわれている。


会場のある二階“百合の間”に隣接する控え室で、私は用意された椅子に座って動かずにいた。


昨夜、“カバディ事件”のせいで眠れなかった私は、自分の身に何が起きたか整理するのに数時間を要し、逆ギレしたまま要冬真に告白をぶちかました事に気付いたのは早朝5時。



お粗末様でした。



と言いたくなったが、グッとこらえた。
なんか、愛の告白ってもっとこう…、盛り上がった感じで行うんでは?
悪口と混ざりあって異様な化学反応を起こしていた私の初☆告白は、なんとも自分らしいモノになった。


まぁ、いっか。



自分の気持ちを言えただけでも、好きな人が出来ただけでも大きな進歩だ。

運命でもいっそいい、私に大事な事を教えてくれた人“クソナルシスト生徒会長”として心のアルバムに記載することにする。


だいたい久遠寺くんの事嫌いじゃないし、時間が経てば好きになるんじゃね?


前向き!ポジティブシンキング私!



「鈴夏様」



「カバディカバディカバディカバディ」



「?」



「深月さんあんた、嫁入り前のか弱い乙女をホテルの一室に放り込むなんて何事」



「…。朝から無視を決め込んでいると思ったらそれで怒ってたんですか」




椅子に座る私の前髪を直そうとした深月さんが、腰を落として額に触れようとしたので彼を睨み上げた。