「私達の為に一泊プレゼントしてくださったらしいですよ」



ウォーターベッドだろうか、水に浮くような感覚が体を揺らして心地よい。
突然落とした影は、久遠寺くんのモノだった。
頭の両側に置かれた長い手。


「え、…っと…な、なに」


二人の体重で揺らぐベッドの不安感は、彼の愉しげな笑みで恐怖心へ変わる。



「男女でホテルに一泊なんて、やることは一つでしょう」



「え?カバディ?」


「誰がやるもんですかスイートルームで」


「ですよね…」



誤魔化すように乾いた笑いは、静かに消えて沈黙が刺さる。
二人で居て、安心感を抱く相手なのに今は逃げ出したい気分でいっぱいだった。




「身内公認のセックスほど気持ちのいいものはありませんから」




なまめかしいセリフが私の頬を撫でていく。
頭が痺れた。

嫌。

喉まででかかった思いを思わず飲み込む。


警告されているようだった。
私ではない誰かに。
彼の言葉が拒絶にも似た警告のように感じられたのだ。

言葉とは裏腹に無表情の目。



「い…やだ!カバディ以外やらないから!夜通しカバディだし!」



「…、あ、電話だ。ちょっと待ってくださいね」



わお!
神をも恐れぬスルーっぷり!
感激しちゃう!

未だ私の上から退く様子のない久遠寺くんは、器用にズボンのポケットから携帯電話を取り出し耳に当てた。


「あぁ、特に用はないんですが…」



受話器の向こうの誰かと会話をしている。

私はボタンが2・3個開いて覗く久遠寺くんの胸元を何となく眺めながら、彼が退いてくれるのを待っていた。


「あはは、あんまり怒らないでくださいよ」


え!
今まで久遠寺くん黙ってたじゃん!
どんな手を使って怒らせた!?


「じゃあ代わりますね。そんなこと言っても、声くらい聞きたいんじゃないですか?」



彼は受話器から漏れる声を手のひらで包み込み、相手を半ば無視した状態で私に携帯電話を手渡す。


そうして優しい口調でこう言った。



「これが、最後のキッカケです」