私は翌日学校を休んだ。
プチストライキ。
「鈴夏様」
深月さんの声は相変わらず綺麗だが、その清らかさが逆に腹立たしい。
「一人でストライキなんかしても、効果は得られませんよ」
襖の向こうからもっともらしい意見が飛んでくる。
しかし私が入るなと言ったからか、特別衝立がしてなくても部屋に侵入してくる様子はない。
「学校なんか行ってやんないよ!」
とは言え、時刻はもう16時を過ぎているため行っても無意味なのだが。
「そんなことしたって無意味なのはアナタが一番解ってるはずでしょう」
「わかっとるわ!学校でアイツに会ったら決意が揺らぐだろうがだから行かないんじゃボケェェ!」
ストライキ終了。
ガラリと襖を開け、目の前に居た着物姿の我が執事を睨みつけた。
まさか私が出てくるとは思わなかったのか、無表情で驚いてみせた彼は、意外にも冷たい声でこう言い放った。
「アイツとは、誰でしょうか」
あれ。
「え…、っ、と…」
なんかコェェェ!
プチストライキに対して予想外にお怒り!?
無表情の中にくすぶる怒りが見え隠れしている、と言うよりは殆ど隠す様子がない。
こんなに怒りを露わにするとは…プチストライキに嫌な思い出があると見た。
「だれですか」
最早思いやりの欠片もない口調に、私は思わず数歩後退りした。
「み…。深月さん」
「はい」
「なぜに、怒ってらっしゃる?」
「…」
「…」
「怒ってなどいませんが」
しれっと飴を取り出すような軽さで答えた深月さんのオーラは、いつの間にか怒りを感じなくなっていた。
「?」
「?」
まぁ、今は怒ってないし。よしとしよう。
あれかな、怒ってるだろうっていう先入観でそう見えただけかな。
「それより、出てきていただけたのなら出掛けますよ」
結婚会見だかなんだか知らないが、ついに明日だ。
いや、『ついに』という表現は間違っている。