「えー、帰るの?」
「帰る!もう、今日は帰る!」
放課後カバンを掴み勢い良く教室を出ると、それに気付いたハルが後を追う様に私の横に並んだ。
「今日生徒会の集まりだよー」
「イヤダ、もう、会いたくない!」
要冬真にも、それから久遠寺くんにも。
「えー。別にいいじゃーん視界に入れない様にしておけばさぁ」
「アホ!無理だわそんなん」
私は結局捨てるタイミングを逃した校内新聞でハルの頭を叩いたが、彼が諦める様子はない。
昇降口の下駄箱へ、乱暴に靴を突っ込んでローファーを地面に叩き付ける。
しっかり上を向いていない靴を足先で掬い上げて足に八つ当たりしながら学校を出た。
「あー待ってよ!校門まで一緒にいく!!」
「…あんた集まりどうすんのよ」
私がいくら早足で歩いても離れる事の無かったハルとの距離は、彼のスキップ一つで縮まった。
立ち止まって確認する様に犬のような丸い目を覗き込む。
茶色がかった、甘えるようなそれのおかげか、ささくれ立った心が少しだけ和らいだ。
心無しか体が軽い。
ハルは歯を見せて笑うと、カバンを持ったまま頭の後ろで手を組んで、歩き出した。
「だって、リン一人じゃ寂しいでしょー?意地っ張りさんだから」
「意地っ張りって…」
「ぜーんぜん、素直じゃないし」
左手で数を数える様に親指を折る。
「強がるし」
人差し指。
「意外に押しに弱いし」
中指。
「ちょっとM?」
薬指…、が折れる前にそれを掴んでやると、ハルが不思議そうに首を傾げた。
「違うの?」
「違う!!」
Mってなんだ!恥ずかしい!
「違わないよー」
ハルは、ゆったりとした口調で、校門へ続く前庭の一本道の真ん中で私を下から覗き込んだ。