私とユキ君しか居なかった静かな生徒会室に、扉を蹴り開ける大袈裟な音が響いた。

二人でほぼ同時にそちらを見れば、入り口に立っていたのは要冬真で、なるほど奴がドアを蹴り開けたのだとアイコンタクトを交わしたのは秘密の話だ。


人間には所謂「手」というドアノブを捻るための素晴らしい部分があるのだかそれを使えと、文句でも言おうとしたがよく見ると、奴の左脇に何かぶら下がっている。



花櫛悠海【ハナグシ-ユウミ】。二年生生徒会役員・会計。


「海、いい加減起きろ」


要冬真に頭を叩かれ、数秒間フリーズした後丈の丁度良いスカートがピクリと動いた。


「あり、桜の木の下に居たはずが生徒会室」


モンブラン色の腰まで伸びた艶がある髪は寝相が悪かったせいかボサボサで、口の元まで髪が引っ張られている。



「ったく、毎度毎度探しにいく俺の身にもなれ」


「探しにこなくていいもん」



要冬真の呆れた声色に、海ちゃんは不機嫌な顔の奴を見上げて地面に降りると、ドカドカと足を荒げるような歩き方でこちらへやってきて私の隣に腰を下ろし横になった。

彼女の頭は、私の膝の上。


その一連の彼女の動きを、刺すような視線で見ていたユキ君は小さくため息をつく。


「悠、授業に出てないと思ったら。また寝てたのか」




「だって、慧がかまってくれないから」


「授業中に隣の席の奴をかまう人間がどこにいるんだよ、それに…」



ユキ君は目を細めて私の膝元から私に視線を移し、置いていたシャープペンを手に取った。



「先輩の邪魔はするな」


「えー、邪魔?」

「いや、私は全然!」


「ほーら、リンちゃん先輩は優しいから」


海ちゃんは私を見上げてふにゃって笑う。
まだ少し眠いのか、目元は重そうだ。

彼女につられて私が笑うと、ユキ君は埒があかない言ったような表情を見せて、完全に作業に集中しだした。