ソロリ、と効果音が出そうなスピードで私は車から降りた。


「いってらっしゃいませ、鈴夏様」


深月さんのいつもの挨拶に驚いて振り向き、小声で、いってきます、と呟く。
升条の社長と対面したのは昨日の話で、私の縁談相手を会ったのも昨日。


初めて会ったはずなのに酷く見慣れた顔だったのはなんでだろう。


…、あ、夢か。



「夢落ち!」


「…、先輩朝から煩いんですけど」


「お、ユキ君じゃないかおはよう!酷い夢を見ていたんだよ聞きたいかいハニー?」


「…おはようございます」



ユキ君は私にこの世のモノでは無いモノをみる視線を寄越したので、とりあえず笑ってみせると呆れたように溜め息をついた。


「先輩って、変ですよね」


「え、嘘。ユキ君みたいな常識人に言われるとちょっとリアルっぽいからやめてよ」


「現実を見ることも大事だと思いますよ」


「NO!今の私にその言葉はNG!今まさに現実から逃げようとしてた所なのに!」


生徒会のみんなと彩賀さんには、自分の母親のことと、自分が升条の家に出入りするようになる事は話した。
一応、知っておいて欲しくて。

しかし縁談の話があることは流石に言えず、しかも断る気満々だったので話す必要もないと思っていた。

それがどうだ、脅され流され、最終的に現れた縁談相手に驚きすぎて何も言えずその後はほぼ抜け殻状態で帰宅。



っていうか、縁談の話は4月からあったわけでしょ?



…、あの人いつから知ってた?



でも久遠寺くんは割と驚いても平然を装えるタイプだし…



『“運命”って信じますか?』


「NOOOO!」


私が叫ぶと、隣で歩いていたユキ君がびくりと肩を浮かせたのが見えた。
何気に一緒に登校してくれるとか、可愛いじゃないか、ってそうじゃない!


技術学芸会ってあれ5月だろ!


だいぶ前から知ってんじゃん!



なんで言ってくれないんだよー!
実は“私の婚約者、鈴夏さんと同じ名前なんですよね”みたいなさぁ、いや、それでも気付かないな…。