大体だね、弟の陽介さんがあんなにキラキラ笑うのになんでブラックは笑わないわけ!
ブラックだって笑えるはず!
あの他人本位な感じを校正させなきゃダメよね。
台所に向かい、戸惑うお手伝いさんを無理やり退かして食器を全力が洗ってやった。
ふっ…お手伝いさんも休むがいい!!
それからスタッフ用の食事を作っていた板前さんを無理やり隅に追いやって代わりに料理を作った。
ラーメン屋の娘をなめるな。
「なにしてるんですか鈴夏様」
「おお!ブラック!」
「おお、じゃありません。葛西が風呂場に飛んできましたよ」
葛西さん、は板前さんの一人だ。
チクられたか。
ブラックは急いで出てきたからか、髪は乾いておらず腰まで湿り気のある艶やかなそれが流れている。
サイドの短めの髪先からは雫が落ちて、浴衣の色を変えていた。
「髪」
「はい?」
「髪乾かしてあげる!」
料理も終わったので、ブラックの手を引いて台所を飛び出した。
私の部屋にドライヤーがあったはず、黙って連れられている彼を尻目に私は障子を開け中に入り座布団を用意してそこへ強引に座らせた。
意外に大人しい。
タンスに仕舞われていたタオルを取り出し髪の毛をかき回すように拭いてやると、ブラックが声を上げた。
「自分でやりますよ」
「私がやる!執事は黙ってな!」
簡単に黙るというのも可笑しな話だが、彼はいとも簡単に黙ってしまった。
タオル越しに感じるブラックの髪は柔らかい。
諦めたように微動だにしない彼の背中はなんだか可愛かった。
しばらく漂っていた沈黙の中に、ブォッと風が流れる音が広がった。
暴れる髪を手櫛で流しながら、私は何となく足を崩す。
「ねぇブラック」
「はい」
「ブラックは、あまり笑わないけど、どんな事があったら笑う?」
ブラックの表情は見えない。しかし見えた所で無表情なのだから、見る必要もないのだと思う。
少し考えるように黙っていたが、ドライヤーの音に乗せて小さく呟いた。
「鈴夏様が、立派なお嬢様になった時です」


